なるほど,そうだったか!あの昆虫のたくましさの秘密を垣間見たようですごく納得です.
「ゴキブリ共生細菌Blattabacteriumによる窒素再利用と栄養源供給」
Zakee L. Sabree, Srinivas Kambhampati, and Nancy A. Moran. Nitrogen recycling and nutritional provisioning by Blattabacterium, the cockroach endosymbiont. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, PNAS published online before print October 30, 2009, doi:10.1073/pnas.0907504106
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19880743?dopt=Abstract
この米国科学アカデミー紀要に発表された論文には,ゴキブリとその共生細菌Blattabacteriumとの驚くべき関係が報告されています.ゴキブリの体内に共生しているバクテリア(細菌),Blattabacteriumは,必須アミノ酸,種々のビタミン類,その他様々な栄養物質をゴキブリに提供します.しかし,それら種々の栄養素は外から取り入れるのではなく,ゴキブリが生活することで生まれる老廃物,尿酸を使って作られているのです.尿酸は尿素に,尿素からアンモニアに,そして最終的にはグルタミン酸に変換され,このグルタミン酸から再び様々な栄養素が生み出されます.
つまり単純に説明するなら,非常に効率的な物質循環系がゴキブリの体内で生まれているということ.ほとんど何も食べず,またほとんど何も排泄せずとも,ゴキブリは長期間健康に生きることができますが,このバクテリアの共生がその理由を説明しています.
一方,私たちの老廃物はいったん体外に出してからでないと循環は起こりません.例えば,私たちの排泄物は畑の肥料になります.私たちの排泄物が土壌細菌などによって代謝され,植物が栄養源として利用可能な窒素化合物が再び生まれます.そしてその窒素化合物を吸収して畑のトマトは生長し,夏に実ります.このトマトを私たちが食べるとようやく循環達成ですね.私たちの排泄物が,長い旅を経て再び美味しいトマトになって戻ってきたわけです!
しかし,ゴキブリはこんな面倒なことをせずとも,自分の体内の腸管の中で,Blattabacteriumと手を取り合って循環を完成させているわけです.
一方,ゴキブリは多くの栄養の生産をこのバクテリアに依存しています.ですから,Blattabacteriumと一緒じゃなきゃ,ゴキブリは生きることさえできません.(この事実は以前から知られていたようです.)食物から摂取しても充分にまかなえず,自身で作ることもできないとなると,全く生命を維持できなくなるわけです.
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昆虫恐るべし,と言いたい所ですが,人間も同じようなものです.例えば,人の体は約160兆個の細胞でできています.あれ?昔生物の教科書で60兆個と習った気が...という方,確かに正解.人の遺伝子を持った正真正銘の人の細胞は約60兆個と見積もられています.じゃあ残りの100兆個の細胞はというと,ゴキブリのBlattabacteriumのような存在.つまり共生している微生物たちの細胞です.皮膚の上や消化管(腸内)や口の中や,ありとあらゆる場所にはおびただしい種類と数の共生細菌が住んでいて,私たち人間の健康な命を支えています.まあ,支えているという言い方はちょっと人間中心的で,彼らも居心地がいいから人間の体に住んでおり,人の細胞と共存の関係を構築しています.結果的に,私たちは共に生きて行くことになっているわけです.
どこまでが私でどこからが私じゃないの?
自分の意識や気持ちは自分自身のもの,と当然思われますが,本当にそうでしょうか.急に部屋の換気をしたくなったのは,本当にあなたですか? ひょっとしたら,共生微生物が部屋の中のアンモニアなどの汚染物質の濃度上昇を感じ取り,人間の細胞に情報を伝えているのかもしれませんよ.そのおかげで部屋を換気したくなったのかもしれません.人間の細胞と共生微生物の細胞はとても複雑な情報のやりとりを行っていて,相互に常に影響を与え合っています.うつ病と腸内共生細菌との関連性を指摘した報告だってあるのです.
そもそも「自分」というものの定義を変更すべきなのかもしれません.自分=人間,じゃあないのです.自分とは,人間も含んだ様々な種類の生物の巨大な集合体です.そう考えれば,部屋を換気したくなったのは,やっぱり「自分」で合っていますね..もし宇宙人に「あなたは何という生物か?」と聞かれたら,「一種類じゃなく,かなりたくさんの生物が集まって私ができあがっていますが,一応人間と呼ばれています」と答えるのが正しいでしょう.










