さて,議論は社会生活を営む人が他者と関わる時に避け難い行為です.難しい政治の議論だけが「議論」なのではありません. 例えば,AさんとBさんが今日のランチは何を食べるかで意見が割れています.Aさんはパスタ,Bさんは回転寿司がいいと意見を発したとして,この後二人はどうするでしょう.もし完全なる「序列」があるなら,上位の人の意見にもう一方の人はただ従うだけかもしれません.しかし,一切の序列が存在しなかったら.この場合,議論しなくては話しは先に進みませんね.Aさんが「回転寿司って,○○寿司のこと? あの店は昼休みの時間はいつもすごく混雑してるよ.」と言って,Bさんが「確かにそうだな.じゃあ今日はパスタにしよう」という過程がなければ問題は解決しないのです.この場合,単純な状況なので,たったこれだけですが,基本的にそこに行き着くまでの理由付けを模索し,それを基盤に相互理解に達した,という意味ではこれも立派な議論です.
こう考えると,議論が起こる条件というものが見えてきます.議論は,2人以上の人が違う意見を持っている時に,その人たちの間にいかなる序列も存在しない時に,そしてその複数の意見をひとつにまとめなくてはいけない時に,必ず生じるのです.
議論が生じる条件が分かると,日本人がなぜ議論が下手なのか,その理由も同時に見えてくる気がします.日本は島国で,異民族からの侵略は歴史上ほとんどなく,長い時間をかけて日本人に共通の価値観が構築されてきたと思われます.ですから,話す前からお互いにかなりの部分を分かり合っているので,議論の必要性が少ないのです.同じ価値感でないとすれば,例えば,武士と農民は全く違う価値感を持っていたでしょうが,両者の間には確固たる序列が存在し,腹を割って議論をする必要性などやはりなかったでしょう.つまり,日本人は「議論」を行う機会は非常に少なかったのかもしれません.
しかし現在の日本は,西洋から民主主義の思想を取り入れることで,一人一人が自由に考え発想し,意見を交換し合うことが可能な社会システムを手にしています.しかし,「議論の方法」はまだ手に入れていないのではないかと感じます.日本人は,本当に深く物事を考えていたとしても,真っ当な議論にはほとんどならないとつくづく思います.その原因は非常に単純なことだと思いますので,以下に書きたいと思います.
原因1:今何を話し合っているのか,その論点を忘れること.
最も重大な問題です.例えば,「漫画は芸術と言えるのか」ということを話し合っていたはずなのに,時間がたつと「日本の漫画が世界で受け入れられているのはなぜか」という議論に変化してしまい,結局最初の「漫画は芸術と言えるのか」という論点に戻ることなく,なんとなく議論が終了してしまいます.こういうことが多いのです.
原因2:根拠が歪んでいる.もしくはない.
主張する意見の根拠がおかしい,とよく感じます.例えば,民主党が「ガソリン税率の引き下げは民意である」などという言い方をしますが,それは根拠が歪んでいます.民意のとおりに行うだけなら,政治家というプロは必要ありません.ガソリン税の意味,道路特定財源のあり方,このような本質的な場所から離れ,別の場所に論拠を見出すことはできないはずです.また,もっとひどいケースが筋の通った論拠がない場合です.夫婦別姓の記事でも書きましたが,同姓であるべきを主張する人は「同姓であることが家族の絆を強める」と考えていますが,それに対する筋の通った根拠を聞いたことがありません.
原因3:揚げ足をとる.
日本人はまず間違いなく揚げ足取りを行います.こういう私もそのような方向に走っていることに気づき,慌てて「これじゃいけない」と思うことがあります.(反省)「揚げ足取り」とは,相手の論拠の矛盾を指摘することではなく,そこからずれた場所における相手の弱点を指摘することです.典型的なものとして,「物事の悪い面ばかりを見るのは君のよくない点だ」などという指摘です.これは,本題から逸脱しています.悪い面を考え,どうしたらよいか考えている人を冒涜しているわけですよ.真っ当な議論では,「君の考えていることは悪い面ばかりとは言えない,なぜなら,○○○だから充分によい面もあるよ.」のように言うべきです.揚げ足を取ることは,本題から逸脱する意味において,原因1の原因にもなっています.
原因4:自分の主張を守ることに固執する.
本来,あらゆる検証を行って,確信が持てたから,自分の意見を主張できるわけです.しかしもし,より客観的な別の意見によって,全く自分の主張は論理的ではなかったと感じることがあったら....その時は,自分の意見の否を認めるべきです.しかし,実際はそのようなことは極めて稀です.いつしか,自分の主張を論理的に説明しようという姿勢が崩れ,自分の主張を何が何でも守ることに固執し始めます.この状況だけを見ていると,初めから自分の考えを他人に押し付けたかっただけなのか,と疑ってしまいます.私の経験則では,このタイプの論者が劣勢になると,必ず「話しにならない.」「君と話しても時間の無駄だ.」のように結ぶ傾向を感じます.
以上,4ポイントを頭に置いて,話し合いをしてみるといいでしょう
・話しの論点は何なのか,常に意識するよう心がける
・根拠は充分に客観的で一般化できるものなのか,常に精査を心がける.
・論点とは違うポイントでの指摘(揚げ足取り)をしないよう常に意識する.
・議論の目的は,自分の主張を通すことではなく,より正しく高次元な考えに到達することだ,と強く意識する.
これで,正しく議論が進むはずです.日本における様々な問題を議論し合うのはそれからです.










