選択的夫婦別姓

「選択的夫婦別姓法案」というものをご存知でしょうか.2000年前後に日本で議論が活発に交わされた法案で,2001年の世論調査では,賛成派が反対派を上回っています.特に20代から30代の若い世代の賛成派がかなりの多数を占めました.

選択的夫婦別姓は,姓を別姓にしましょう,というものではありません.
「結婚時に,姓を同一にするか別姓にするかを選択できるようにする」
というものです.よって,これまでどおり,「同一の姓がいい,結婚相手の姓に変わりたい」と考える人にとっても,「姓が変わるのは嫌だから別姓にしたい」という人にとっても何ら問題のない,誰かを切り捨ててしまうことのない法案です.国民はそれなりに理解していて,世論調査で賛成派が多数を占めるのも当然だという気がします.

日本において,姓は非常に重要な役割を果たしています.本当は「名前」というその人にしかないものが別途あるにも関わらず,親しい間柄にならなければ,姓で呼ばれる場面がほとんどですね.ですから社会というシステムで暮らす時,自分が呼ばれたのかどうかを区別する意味において,姓が重要な役割を果たしています.学校の先生も「名前を呼んだら元気に返事してください」と出席をとり始めて,「井上くん」「江藤さん」と,姓を呼び始めるでしょう.笑 つまり,日本人にとって,ほぼ「姓=名前」なんです.そう考えると,結婚時に姓が変わるというのは,むしろ「名前を変えている」と捉えるべきです.このことを本当に男性は認識していない場合が多いと思います.今の日本では法制度上,同姓にしなくてはいけませんが,女性と男性,どちらの姓であってもいいわけで,法の下には平等です.しかし,現実には97%の夫婦が夫の姓になります.まさに「法の下だけの平等」と私がいつも言うのはこの点で,97%の数値を作り出す強固な社会基盤が日本に存在しているということです.実際このような社会的常識による穏やかな強制によって姓を変えさせられる女性は,「自己喪失感」を強く感じます.また,仕事を行う上でも姓を変えることは障害を強いますし,姓の変更のための事務手続き(免許証やクレジットカードや,その他いろいろ...)をたくさん行わなければいけないのも,姓を変える側だけです.つまり,現状の同姓による不均衡は非常に不健全であり,選択的夫婦別姓はそれをほぼ完璧に解決してくれるものです.(結婚時に,別姓か同姓かをめぐって2人がもめても,それは法律の範囲外のことですが...汗)

私にとって選択的夫婦別姓は,上に書いたこと以外の意味においても,非常に進歩的で明るいイメージを感じます.それはどういう部分かというと,目に見える切迫した問題(例えば「財源が足りなくなるから,とにかく消費税は引き上げだ!」というような)などではない領域に対して,私たちの意志で積極的に踏み込もうとしている点です.そして,その踏み込む場所は,倫理的な世界です.消費税増税のような付け焼刃的な概念ではありません.社会構造の基礎の目に見えにくい部分に対して,倫理観の立場からメスを入れるという作業であり,むしろ極めて大切な作業であると感じます.日本では滅多にこの類の議論はなされませんので,非常に貴重な法案なのです.

さて,反対派の意見は非常に根強いです.反対派は権力を持った年配の男性には多い傾向があり,特に男性の国会議員の方たちは,反対派が多く存在しています.結局この法案は決議されることなく,現在は「継続審議」という形のまま,実質「うやむや」にされてしまいました.また,国民も興味を持っていたかというと,それほど持っていたとは言えません.よって,静かに忘れ去られていきかねない状況です.

ところで,選択的夫婦別姓に反対の人はどんな主張をしているのでしょうか.残念ながら,「確かに一理あるな」と思えるものは何一つありません.だいたい分類すると,「論理の破綻した持論を繰り広げる」か「賛成派の揚げ足をとる」か「そもそも誤解がある」かに分かれます.この法案の意味を真剣に考え,「この方法ではそれは上手くいかないんじゃないの?なぜなら・・・」みたいな正論でもって,選択的夫婦別姓を否定できる人に私はまだ出会っていません.主な反対派の理由は以下のようなものです.

・家庭の崩壊(家族の絆の崩壊)を促進してしまう.(論理の破綻型)
姓が(たいていの場合夫と)同じであることで,家族の絆が結ばれていると考えているのでしょうか?論理性がありません.もしくは,同一姓というものを通して家族の絆を捉えているのであれば,この意見は非常に形式的で記号論的です.現在の国民の考え方にそぐわないと思います.それから,忘れてはいけないことは,この法案は「選択的」だということです.同姓がいい人の人権はちゃんと保護されていて,そういう意味でもこの反対意見の論理性は皆無です.ところで,この類の反対意見を聞くたびにひとつの過激な意見を私はいつも思ってしまいます.「姓がばらばらになった程度で絆が喪失へ向かう家族は,ばらばらになったほうがむしろいい,お互いより不幸になるだけです!」...言ってしまった...汗

・日本の伝統を失くすべきでない.(論理の破綻+揚げ足取り)
仮に伝統であったとしても,この意見は本質的な議論にならないです.なぜなら「伝統を壊してまでも,この法案は意味がある」と賛成派は思っているのですから.ですから,この伝統にどのような意味,美的世界があるのか,その理由を提示してほしいです.しかし,その理由はいつもありません....ところで,残念ながら夫婦同姓は日本の伝統ではありません.(もうむちゃくちゃ...)明治31年に生まれた法律で,それまでは日本人のほとんどが姓を持ちません.士族の出身で姓を持っていた人も,結婚しても姓は同じになりませんでした.北条政子はずっと北条です.基本的に日本は夫婦別姓なのです.(まあ,この時代は今で言う別姓の意味合いとは違いますが...)よって,夫婦同姓は100年ほどの歴史です.

・子供の姓はどうするんだ?(揚げ足取り)
親が子供が生まれたときに決める方法と,子供が15歳になった時にさらに自由に選べるようにする,というふたつの方法が提案されています.特に問題なく,自由があっていいと思います.それよりも,この法案の本質的意味を真正面から考える意見をお願いします.

・電話帳や表札はどうするんだ?(揚げ足取り)
これも本質的議論ではないです.電話帳には2人とも載せても,1人だけ載せても自由でいいと思いますし,表札も出したい人は二つ出せばいい思います.とにかく,これは手詰まりになるほど重篤な問題ではないと思います.それよりも,この法案の本質的意味を真正面から考える意見をお願いします.

・世界的には,男性の姓に女性が変わるの国が主流なのでは?(誤解)
いいえ.少数派です.ほとんどの国が別姓か選択姓か,結合姓(姓を二つ重ねて表記する)です.お隣の韓国や中国も夫婦別姓です.ちなみに,主流かどうかは関係ありません.それよりも,この法案の本質的意味を真正面から考える意見をお願いします.

是非とももう一度国会で審議してもらい,実現して欲しいですね.あともう少しのところまで行っていたのですが,否決ではなく,もみ消し状態なのは残念です...涙 私は思うのですが,これ,決議したら可決する可能性はあるんじゃないでしょうか.世論も,現在は分からないですが賛成派が多数です.だいたい,真っ当な議論をしたら,マイナスの意味合いはこの法案の中に探すことは不可能です.ですから,極論すると,これが否決されたらどえらいことです.だから「もみけし」なんでしょう...これが現実なんです.

ところで思うのですが....絶対反対派は,同姓を通して何を守ろうとしているのでしょうか.私はどんなに注意深く話を聞いて考えても,本当に分からないんです.


追記:全く論理的ではない直感ですが,私は選択的夫婦別姓の実現は,人口減少に歯止めをかける力を持ちうると考えています.女性の社会からの抑圧が減少するのですから,女性が感じる幸福感が増えるでしょう.こういう変化こそが大切だと思うんです.これも,安心して子供を産めることにつながらないでしょうか.

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テーマ : これでいいのか日本 - ジャンル : 政治・経済

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